この記事の答え
- 伝え方:「法律の義務だから」だけでなく、「どの部署の、どんな困りごとが軽くなるか」を先に伝えます。国の審議会で議論中の資料でも、障がいのある社員が会社の戦力になることが、雇用の「質」の目指す姿の案として示されています。
- 体制:受け入れる部署に押し付けず、経営層・人事・部署・外の支援で役割を分けます。配慮や相談の体制づくりは、会社の義務です。
- 順番:説得の言葉より、社内に1つ「戦力になった」事例をつくるほうが、風向きは変わります。まず部署ごとの困りごとを集め、任せる仕事を1つ決めます。
社内で進まないのは、よくあることです
「部署に相談したら『うちは無理』と言われた」「前に受け入れた部署が疲れてしまった」「足りないのは1〜2人なので後回しになっている」「上に説明する材料がない」。障がい者雇用の担当になった人事・総務の方から、よく伺うお話です。NEXTぷれいすが商談でお話を伺った会社の多くで、「任せる仕事がない」「定着しない・受け入れた部署が疲れる」という悩みが出ていました。
私たちは、部署が嫌がるのは、障がいのある方を迎えたくないからではないと考えています。「何を任せるのか」「困ったときに誰が支えるのか」が見えないまま頼まれるから、不安になるのです。説明の中身と順番を変えれば、社内の反応は変わります。
上司・経営層に説明するときの5つの項目
稟議や上司への説明では、次の5つを1枚にまとめると話が早く進みます。いちばん上には、法律の話より先に「どの部署の、どんな困りごとを軽くしたいか」を書くのがおすすめです。決める立場の方が知りたいのは、義務の中身より「会社にとって何が良くなるか」だからです。下の表の「書く内容の例」の〇〇を、御社の数字や部署の名前に置きかえると、そのまま稟議の下書きになります。

| 項目 | 書く内容の例 | そろえておくもの |
|---|---|---|
| いちばん上:目的 | 「〇〇部で後回しになっている〇〇の仕事を任せ、〇〇の負担を減らす。あわせて法定雇用率を満たす」 | 部署から聞いた困りごと(下の「まず1つ、『戦力になった』事例をつくる」の手順1) |
| 1. 法律の義務と数字 | 「当社の常用労働者は〇人。2026年7月からの法定雇用率2.7%で、必要な人数は〇人。いまは〇人で、〇人足りない」 ※常用労働者37.5人以上の会社に雇用の義務があります。必要な人数は「常用労働者数×2.7%」(1人未満は切り捨て。120人なら3人)。6月1日現在で、不足が5人以上の会社(実雇用率が全国平均より低い場合)や、必要な3〜4人を1人も雇っていない会社などは、雇入れ計画の作成命令を受けることがあり、改善しないと企業名の公表まで進むことがあります | 御社の不足人数と、次の6月1日までの期限(法定雇用率の計算ツール・企業名公表の流れ) |
| 2. 費用と助成金 | 「納付金は年〇万円(不足〇人×月5万円×12か月)。雇う費用は年〇万円(給与・社会保険料)。使えそうな助成金は〇〇。条件を満たした場合だけ受け取れるので、予算には入れない」 ※納付金がかかるのは常用労働者100人超の会社です。比べ方は下の「『納付金を払うほうが安い』と言われたら」に | 雇う費用の見込みと、使えそうな助成金(助成金の一覧・納付金) |
| 3. 任せる業務 | 「〇〇部の〇〇と〇〇を、週〇時間ぶん任せる。部署の〇〇にかかる時間が減る見込み」 | 部署の仕事を書き出した表(業務切り出しシート) |
| 4. 受け入れ体制 | 「仕事の指示は〇〇、相談の窓口は人事の〇〇、調子を崩したときに間に入るのは〇〇。社内で足りない部分は〇〇(ジョブコーチ・外部の支援など)を使う」 | 役割の分担表(下の「受け入れる部署に押し付けない」) |
| 5. リスクと対策 | 「合わなかったとき・調子を崩したとき・辞めたときは〇〇。配慮は本人と話し合って決め、〇か月ごとに部署と人事で振り返る」 ※採用前の実習やトライアル雇用で相性を確かめる方法もあります。ただし、ハローワークなどの紹介を受ける前に実習や面接を始めると、特開金などの助成金の対象外になるおそれがあります(特開金と実習の順番) | 採用の進め方と、入社後の報告の流れ(トライアル雇用と実習・合理的配慮) |
写して使える版(〇〇を御社の内容に置きかえてください)
- 目的:〇〇部で後回しになっている〇〇の仕事を任せ、〇〇の負担を減らす。あわせて法定雇用率を満たす
- 1. 法律の義務と数字:常用労働者〇人×2.7%=必要〇人(1人未満は切り捨て)。いま〇人、不足〇人。次の報告は〇年6月1日現在
- 2. 費用と助成金:納付金 年〇万円(不足〇人×月5万円×12か月)/雇う費用 年〇万円(給与・社会保険料)/使えそうな助成金 〇〇(条件を満たした場合だけ。予算には入れない)
- 3. 任せる業務:〇〇部の〇〇・〇〇を週〇時間。減る負担:〇〇
- 4. 受け入れ体制:仕事の指示 〇〇/相談の窓口 人事の〇〇/間に入る人 〇〇/外の支援 〇〇
- 5. リスクと対策:採用の進め方 〇〇(紹介を受けてから選考)/合わなかったとき 〇〇/調子を崩したとき 〇〇/振り返り 〇か月ごと
- 始める時期:〇年〇月から(業務の切り出しから採用まで、3か月ほどを見込む)
サテライトオフィスや農園型など、外部のサービスを使うときに稟議で聞かれやすいこと(役割分担・情報管理・契約など)は、6つの形の比べ方にまとめています。
「納付金を払うほうが安い」と言われたら
上司からよく出る言葉です。答える前に、比べるものを1つの表に並べます。数字は令和8年度のものです。
| 比べるもの | 数字の目安 |
|---|---|
| 納付金 | 常用労働者100人超の会社で、不足1人につき月5万円。1年間ずっと1人足りないと60万円、2人なら120万円です。払っても雇用の義務は残り、足りないあいだは毎年かかります |
| 雇う費用 | 給与と社会保険料。たとえば大阪府の最低賃金(時給1,231円・2026年10月1日から)で週30時間働いてもらうと、給与だけで年およそ192万円(1,231円×30時間×52週。社会保険料は別)。週30時間以上で雇うと、法定雇用率では1人(重度の身体・知的障がいのある方は2人)と数えます |
| 使える助成金 | ハローワークなどの紹介で続けて雇うと、特開金(特定求職者雇用開発助成金)の対象になることがあります。週30時間以上で雇う場合、身体・知的障がい(重度以外・45歳未満)の方なら、中小企業は2年で120万円、それ以外の会社は1年で50万円。重度の身体・知的障がい、45歳以上の身体・知的障がい、精神障がいのある方なら、中小企業は3年で240万円、それ以外の会社は1年6か月で100万円。条件を満たさないと受け取れません(特開金の条件) |
| 雇わないときのリスク | 6月1日現在で、不足が5人以上の会社(実雇用率が全国平均より低い場合)や、不足が10人以上の会社、必要な3〜4人を1人も雇っていない会社は、ハローワークから雇入れ計画の作成命令を受けることがあります。改善しないと、勧告・特別指導を経て、企業名の公表まで進むことがあります。令和6年度は446社が作成命令を受けました |
お金だけを並べると、雇う費用のほうが大きくなることが多いです。短い目で見ると「納付金のほうが安い」と見えるのは、そのためです。ただ、納付金は払っても会社に何も返ってきませんが、給与は任せた仕事への支払いで、後回しになっていた仕事が進みます。法定雇用率はこれまで段階的に上がってきました。私たちは、何人も足りなくなってから急いで採用するより、早めに1人目を迎えて社内に経験を残すほうが、会社の負担は小さくなると考えています。だから、雇うほうをおすすめしています。
御社の必要な人数・不足人数・納付金の目安は、従業員数を入れるだけで法定雇用率の計算ツールで確かめられます。出た数字を、上の「写して使える版」の「2. 費用と助成金」に書き写してください。
「義務だから」ではなく「会社の困りごとが解ける」と伝える
障害者雇用促進法は、人数の義務だけを定めた法律ではありません。2023年4月からは、会社の責務として、障がいのある社員の能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えることや適正な雇用管理に加えて、「職業能力の開発及び向上に関する措置」がはっきり書かれました(第5条)。厚生労働省は「雇用の質の向上のための事業主の責務の明確化」と説明しています。
国の審議会(労働政策審議会 障害者雇用分科会)の資料でも、雇用の「質」を高めて目指す姿として、会社にとっては障がいのある社員の力を引き出して事業に生かすこと(戦力化・活躍促進)、ご本人にとっては力を高めて貢献し、それを実感できること(成長・やりがい・貢献実感)が挙げられ、2つは表と裏の関係にある、という考え方が、目指す姿の案として示されています(議論が続いている段階の資料です)。
私たちのところでも、話が前に進むのは「義務の人数」の話をしたときより、「現場で手が足りていない仕事を、任せられる人がいる」と分かったときです。ある会社では、とても忙しかった本部の労務・総務の仕事で障がい者雇用を始めました。単純な作業を任せる予定でしたが、働きはじめた方はプログラミングが得意で、手作業の転記をつなぐ仕組みをつくり、いまでは社内から仕組みづくりを頼まれています(導入事例)。
上司に伝える、会社の側のメリットは次のとおりです。
- 人が足りずに後回しになっていた仕事が進む
- 仕事を工程に分けて書き出すので、一人に集まっていた仕事の手順が見えるようになる
- 法定雇用率を満たし、納付金や行政の指導の心配が小さくなる
- 見直した指示の出し方やマニュアルが、ほかの社員の働きやすさにもつながる(私たちが現場で感じていることです)
受け入れる部署に押し付けない
障がいのある社員への配慮は、部署の善意に頼るものではなく、会社の義務です。障害者雇用促進法は、障がいの特性に配慮した設備の整備や、援助する人の配置などの措置(合理的配慮)を会社に求め(第36条の3。過重な負担になる場合を除く)、本人からの相談に応じる体制を整えることも求めています(第36条の4)。社内の担当者にも決まりがあります。
- 障害者雇用推進者:常用労働者37.5人以上の会社(2026年7月から。それまでは40人以上)は、雇用を進める環境の整備や、雇用状況の報告などを担当する人を選ぶよう努めます(努力義務・第78条)。
- 障害者職業生活相談員:障がいのある社員を5人以上雇用する事業所は、資格認定講習を修了した人などから相談員を選び、働くうえでの相談・指導をしてもらう義務があります(第79条)。5人以上になってから3か月以内に選び、ハローワークに届け出ます。
ただ、担当者を決めるだけでは部署の負担は減りません。人事が「何かあったら相談してください」と後ろから支えるだけでは難しい、と私たちは考えています。困りごとが起きるのは毎日の仕事の中だからです。毎日の様子を見て、困りごとが小さいうちに間に入る人を、始める前に決めておきます。
| 役割 | 受け持つことの例 |
|---|---|
| 経営層 | 会社の取り組みとして社内に伝える。時間と予算を認める |
| 人事・障害者雇用推進者 | 計画・採用・報告、部署との調整。配慮を本人・部署と話し合う場をつくる |
| 受け入れる部署 | 仕事の指示と、できあがりの確認。気づいたことを人事に伝える |
| 毎日そばで見る人 | 調子の変化に気づき、本人と部署の間に入る(社内の担当者、ジョブコーチ、外部の支援員など) |
| 外の相談先 | ハローワーク、地域障害者職業センター(雇用管理の助言を無料で受けられます)、障害者就業・生活支援センター、大阪府障がい者雇用促進センターなど |
受け入れる上司の方へのお話は障がいのある社員を受け入れる上司へに、一つの部署に任せてうまくいかなかったあとの立て直し方は一度うまくいかなかった会社が、もう一度始めるときにまとめています。
部署から嫌がられたときの返し方
部署から出やすい声と、返し方の例です。「受け入れてください」と頼むのではなく、部署の困りごとを聞き、不安に先に答えます。
| 部署から出やすい声 | 返し方の例 |
|---|---|
| 「任せる仕事がない」 | 「できるかどうかは置いておいて、人が足りなくて後回しになっている仕事を教えてください。どうすれば任せられるかは、一緒に考えます」 |
| 「教える時間がない」 | 「手順書づくりや、仕事を覚えるまでのそばでの支えを、人事や外部の支援で受け持てないか考えます」 |
| 「何かあったら誰が責任を持つの?」 | 「雇うのは会社です。調子を崩したときに誰が本人に連絡し、仕事の量をどう調整するかを、始める前に決めます」 |
| 「前に受け入れて大変だった」 | 「何が起きていたのか、一緒に振り返らせてください。仕事の決め方と支え方を変えます」 |
| 「うちの部署だけ負担が増える」 | 「会社全体の取り組みとして進めます。1つの仕事、短い時間から始めて、続け方は一緒に決めます」 |
いきなり会議で決めるより、困っている部署の責任者に一人ずつ話を聞くほうが進みやすい、と私たちは感じています。人事の方が部署に足を運び、根回しや日ごろのやり取りで信頼関係をつくっておくことも、遠回りに見えて近道です。
会社全体で「今やるべきこと」という考え方を育てる
法定雇用率は2.0%(2013年4月)から2.2%、2.3%、2.5%、2.7%(2026年7月)と段階的に上がり、除外率も2025年4月に一律10ポイント下がりました。次の引き上げは決まっていませんが、私たちは、求められる水準はこれからも上がっていくと見ています。
国の審議会の資料では、雇用の「質」で特に大事な要素(力の発揮、成果を事業に生かすこと、働きやすさ、正当な評価、雇用の安定)の土台として、「経営層の理解の下で組織的・継続的に取り組むための体制整備」を位置付ける案が示されています(議論中の整理です)。経営層が理解したうえで、会社として続けて取り組める体制をつくる、ということです。
私たちも、障がい者雇用は人事や一つの部署だけでは続かないと考えています。会社全体に「障がい者雇用は、今やっていかないといけないことだ」という考え方が育ってはじめて、受け入れる部署も安心して取り組めます。人事の方ができることは、たとえば次のとおりです。
- 経営層の言葉で伝えてもらう:朝礼や社内の連絡で、会社として進めることを伝えてもらうと、人事のお願いではなく会社の方針だと伝わります。
- 目的を人数だけにしない:「どの仕事を任せ、会社の何を良くしたいか」も社内に伝えます。
- 周りの社員にも知ってもらう:接し方や配慮の考え方を、受け入れる部署以外にも伝えます(障がい者雇用の研修)。
社員全員に障害者手帳の申告を呼びかけるときの社内周知のしかたは、障害者手帳の確認方法にまとめています。
まず1つ、「戦力になった」事例をつくる
社内の理解を得るのに、いちばん効くのは説明の言葉より実績です。社内で1つでも「この仕事を任せたら、本当に助かった」という事例ができると、周りの見方は大きく変わります。人材派遣の会社の例では、個人情報を扱わない営業の仕事から始め、実績を見たほかの部署から「うちの仕事も」と声がかかって、任せる範囲が広がりました(人材派遣会社の事例)。きっかけは「実績を見ているから」でした。
社内にまだ事例がないうちは、ほかの会社の事例を説明に添える方法もあります。JEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)の「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、所在地・業種・障がいの種類・従業員の規模などで、ほかの会社の取り組みや合理的配慮の事例を探せます。
そのうえで、私たちは、1つの部署・1つの仕事から始めるのがよいと考えています。
- 部署ごとの困りごとを集める「受け入れられますか」ではなく、「人が足りなくて後回しになっている仕事」「毎週あるのに時間を取られている作業」「外に頼もうか迷っている仕事」を聞きます。できるかどうかは、まだ考えません。
- いちばん困っている部署を1つ選び、任せる仕事を決める仕事が軽くなったときに効果が分かりやすい部署からが進めやすいです。決め方は業務切り出しの7つの手順に。
- 小さく始めて、結果を見えるようにする短い時間・少ない仕事から始め、日報やタスクの表で「何をどれだけしたか」を部署と人事が見られるようにします。
- 社内に伝えて、次の部署へ「この仕事が、これだけ進んだ」を社内に伝え、関心を持った部署から次の仕事を探します。

急がないことも大切です。6月1日の報告や納付金の申告の直前に慌てて採用すると、任せる仕事が決まらないまま迎えがちです。私たちの経験では、業務の切り出しに1〜2か月、採用まで含めると3か月ほどかかることが多いです(年間スケジュール)。
NEXTぷれいすが一緒にできること
東三国駅(新大阪の隣駅)から徒歩4分のサテライトオフィスです。担当者が御社の部署に伺い、仕事を見せていただいて任せる仕事を一緒に決めます(業務切り出しの支援)。オフィスでは平日9時〜17時に支援員が常駐し、ご本人から御社へ毎日日報、オフィスから週1回ご本人の様子をお伝えします。一緒に働く社員の方への研修も行います。サテライトオフィスをご利用いただく場合、業務の切り出しから求人・面接の同行までは費用はかかりません(費用と利用条件)。社内で受け入れる準備が整っている会社には、サテライトオフィスをおすすめしないこともあります。「上司にどう説明すればいいか」の段階からご相談ください。
