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解離性同一性障害とは?

解離性同一性障害とは

「解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder:DID)」は、かつて「多重人格障害」と呼ばれていた精神疾患です。心に大きな負担がかかったときに、その苦痛から自分を守ろうとして、記憶や意識、アイデンティティが分離し、別の人格(交代人格)として現れるのが特徴です。

映画や小説などで誇張されたイメージを持つ人も多いかもしれませんが、実際にはとてもつらい症状です。自分が「自分でなくなる」感覚や、いつの間にか時間が飛んでいたり、身に覚えのない行動を周囲から指摘されたりすることで、日常生活に大きな影響が出ます。

厚生労働省のサイト「こころの耳」でも、解離性障害のひとつとして取り上げられています。解離性同一性障害は決して珍しい病気ではなく、トラウマや虐待体験が深く関係していることが多いため、誰にとっても他人事とは言えない疾患です。

解離性同一性障害の主な原因

この病気の原因は、幼少期の強い心理的ストレスやトラウマ体験が大きく関わっているとされています。特に、以下のような背景が多く報告されています。

  • 幼少期の虐待や家庭内暴力
     身体的・性的・心理的虐待を受けた経験がある方が多いとされています。幼い頃は自分を守る手立てが乏しいため、心が苦痛を「解離」させる形で対処しようとするのです。
  • 長期にわたる過度のストレス
     親の不在、極端な貧困や家族の病気など、長期間にわたり子どもが安全を感じられない状況が続くと、心が「別の人格を作って」ストレスから避難する仕組みが生まれやすいと考えられます。
  • 個人の脆弱性(気質)や生物学的要因
     同じような環境に置かれても、誰もが解離性同一性障害になるわけではありません。生まれつきの脳の情報処理の傾向や、ストレスホルモンへの反応性が関係している可能性も指摘されています。

解離は本来、人間に備わっている「防衛反応」の一つです。強い恐怖や痛み、ストレスを感じるときに意識を切り離すことで、心を守る機能です。しかしそれが慢性化し、自我がバラバラになってしまうと、日常生活に支障をきたす病気となります。

治療法

解離性同一性障害は長期にわたるケアが必要な病気です。治療の目的は「別の人格を消すこと」ではなく、分かれてしまった自我を少しずつ統合し、日常生活を安心して送れるようにしていくことです。

主な治療は以下の通りです。

  • 精神療法(トラウマフォーカストセラピー)
     解離性同一性障害の治療の中心はカウンセリングや心理療法です。特にトラウマに焦点を当て、過去の体験を安全に振り返りながら整理し、少しずつ別の人格や感情の断片を受け入れていきます。
  • 認知行動療法(CBT)やスキーマ療法
     誤った認知や思い込みを修正しながら、不安やストレスへの対処法を身につけます。特にフラッシュバックや過剰な自己批判への対応に役立つことがあります。
  • 薬物療法
     解離そのものを治す薬はありませんが、うつ症状や不安、睡眠障害が強いときは抗うつ薬や抗不安薬が補助的に使われます。
  • 生活リズムの安定化
     解離性障害はストレスや疲れにより悪化しやすいので、睡眠や食事など生活習慣を整えることも大切です。

なお厚生労働省の「心の健康づくり」や日本精神神経学会の資料でも、解離性障害への治療は医療機関だけでなく、家族や職場の理解を含めた長期的なサポート体制が重要とされています。

解離性同一性障害の方が職場で注意しておくポイント

解離性同一性障害のある方にとって、就職することは大きなチャレンジです。一方で、社会参加や経済的自立は自信回復にもつながります。職場で働き続けるためには、以下のような点に気をつけることが大切です。

  • ストレスをため込みすぎない
     仕事が忙しい時、プレッシャーが強い環境にいると、解離が起きやすくなります。こまめに休憩を取り、頑張りすぎない働き方を意識しましょう。
  • 生活リズムを乱さない
     睡眠不足や夜更かしは症状を悪化させる大きな要因です。なるべく同じ時間に寝起きし、体調管理を心がけましょう。
  • 違和感やサインを早めにキャッチする
     「時間が飛んだり」「気づいたら知らないメールを送っていた」など、いつもと違うことがあれば、早めに主治医や支援者に相談しましょう。

また完璧主義になりすぎず、できる範囲で仕事を進め、小さな成功を積み重ねることで再発予防にもつながります。

解離性同一性障害について職場への伝え方や配慮事項

職場で自分の病気をどこまで伝えるかは悩む方が多いポイントです。基本的にはプライバシーが尊重されるべきで、言いたくない場合は無理に話す必要はありません。

ただし、解離性同一性障害は業務に支障が出ることもあるため、職場で合理的配慮を受けたい場合は、ある程度の情報を伝えておくと安心です。

  • 主治医の意見書を活用
     「勤務時間の短縮」「業務負荷の軽減」など、必要な配慮を主治医が文書にまとめてくれる場合があります。
  • 産業医や人事担当との面談
     復職や配置転換の際には、産業医や人事と話し合い、必要な配慮を具体的に決めましょう。
  • 配慮例
     ・急な長時間労働は避ける
     ・定期的に休憩を取れるようにする
     ・ストレスが強い対人業務を減らす など

厚生労働省の「職場における心の健康づくり指針」や「障害者差別解消法」により、合理的配慮は企業に求められる取り組みです。伝えるタイミングや範囲は慎重に検討し、信頼できる人と一緒に考えると安心です。

解離性同一性障害の方が受けられる就労支援

現在、日本では様々な就労支援制度があります。解離性同一性障害の方も利用でき、以下のようなサービスが安心して働くための助けになります。

  • 就労移行支援
     企業で働くためのスキル訓練や面接練習、職場実習などが受けられます。障害特性に応じた支援計画を立ててくれるので、安心してステップを踏めます。
  • 就労継続支援A型・B型
     A型は雇用契約を結んで働く形態、B型は比較的負担の少ない作業を通じて生活リズムを整える場です。
  • ハローワークの精神保健福祉士やトータルサポーター
     障害者雇用の相談や求人紹介、職場定着のアドバイスも受けられます。
  • 障害者職業センター(高齢・障害・求職者雇用支援機構)
     職業適性評価や職場適応訓練が受けられ、自分に合った働き方を一緒に探してもらえます。
  • 自立支援医療(精神通院)制度
     精神科への通院費を原則1割に軽減する制度です。就労準備期の経済的負担を軽くできます。
  • 地域若者サポートステーション

原則15歳〜49歳の「働くことに悩みを抱える方」を対象にしている、厚生労働省所管の無料支援サービスです。キャリア相談やコミュニケーション講座、職場体験などを通して、働く一歩を一緒に考えてくれます。特に「ひきこもりがち」「自分に自信が持てない」という人にとても心強い場所です。

  •  地域生活支援センター・相談支援事業所

生活面も含めた総合的な支援をしてくれるのが、各自治体の「地域生活支援センター」や「相談支援事業所」です。例えば「どの福祉サービスを使ったらいいか」「医療や仕事とどうつなぐか」を一緒に考え、手続きまでサポートしてくれます。

自分から動くのがしんどい時にも、福祉のコーディネーターが間に入ってくれるので安心です。

  • 生活訓練(自立訓練)

生活リズムやコミュニケーションの基礎を整えたい人向けのサービスです。「いきなり働くのは不安…」という場合、まずは生活訓練(自立訓練)で日中活動に慣れることから始められます。

日々のグループ活動や軽作業の中で、人との関わりや生活リズムを整え、自信をつけていくステップになります。

  • 精神科デイケア・リワークプログラム

通院先の精神科で受けられることが多いのが、デイケア(復職プログラム)です。集団プログラムの中で生活習慣を整えたり、ストレス対処やコミュニケーション練習をしたりできます。

「リワーク」は特に職場復帰を目指すプログラムで、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも推奨されています。

  • 障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)

解離性同一性障害でも、医師の診断があれば精神障害者保健福祉手帳(2級〜3級)が取得できる場合があります。この手帳があると、障害者雇用枠での就職活動がしやすくなり、企業から合理的配慮を受けやすくなるほか、税制優遇や公共交通の割引を受けられることもあります。

  • 自治体の独自サービスやNPOのプログラム

自治体や地域のNPOが独自に実施しているサポートもあります。
例えば:

  • ピアサポート(同じような経験を持つ人同士の交流)
  • 若者就労支援カフェ
  • メンタル不調者向けの就職イベント

これらは「◯◯市 若者サポート」「◯◯市 メンタル 就労支援」などで検索すると見つかりやすいです。

まとめ:一人で抱え込まず、気軽に頼ってみましょう

就労を目指すとき、「自分には無理かも」と思ってしまうかもしれません。でも、あなたの歩幅に合わせて段階をつくってくれる支援が、実はたくさんあります。

  • 就労移行支援や継続支援で、少しずつ働く準備を。
  • 地域若者サポートステーションや職業センターで、将来の方向性を一緒に探す。
  • 医療機関やデイケアで、生活リズムやストレス対処を学ぶ。
  • 精神障害者手帳を取得して、職場で無理なく働ける環境を整える。

不安な時こそ、専門家や支援機関に頼ってみてください。
どんな支援が合うかは人それぞれなので、相談しながら進めていけるのが大きな安心です。

解離性同一性障害は決して珍しい病気ではありません。幼少期の体験やストレスに心が耐えきれず、無意識のうちに「別の自分」を作って生き延びてきた人の大切な合図とも言えます。

一人で抱え込まず、医療機関や就労支援サービス、職場の産業医などと協力しながら、自分のペースで社会とのつながりを持ち続けることが大切です。

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